2014/08/13

【ノンフィクションエッセイ】 靴の底と、ナタリーという、ぱいぱいでか美さんによく似た女性について

現在、世界の人口は約72億人。

その中で靴を履いているのは何人くらいだろう?
全然調べようが無かったので分からないけれど、何十億人のひとが靴を履いてるはずだ。


靴には靴底がある。靴底が無いと靴を履く意味が無い。
足の裏を保護するために靴ってのは発明されたわけだから。

そして、靴底の減りは早い。思った以上に。


毎日、何十億人のひとが靴を履き、何十億足の靴底が減っている。
その減りっぷりは想像を絶する量だ。
毎日、近所にある小山程度の靴底が減っているはずだ。


しかし、僕たちは減った靴底を見たことが無い。
近所に小山ができるほど減っているはずなのに。

これはどういうことだろう?
僕は調べてみた。


(つづく)
(つづき)


靴底について調べる?どうやって調べればいいのだろう。
こういう時、人はとかくGoogleを使いたがる。

しかし、Googleから導き出される情報というのは、あらかじめ用意された答えだ。
僕はあらかじめ用意された答えというのが好きじゃない。
僕の質問のために、僕のためにカスタマイズされた答えが欲しいのだ。


となると、ヤフー知恵袋などを使えば良いかもしれないが、ヤフー知恵袋で他人の質問に答えるのがお好きな人(決してそういう人を否定してるんじゃないですよ。これはスタンスの問題。)に答えを聞くのも、その質問に対して「私はこの質問の答えを知っているからお答えできますよ」と手招きしているような感じがしてどうもしっくりこないのだ。


というわけで、僕が好きなシューズメーカーである、ナイキのお客様相談室に電話をしてみた。

「お電話ありがとうございます。ナイキお客様相談室の福田でございます。」


女性の声だ。少し鼻に掛かった感じの声が僕好みだ。声色からして20代中盤~後半くらいだろうか?
大手のナイキだけあって、声のトーン・抑揚・言葉遣いなど全て完璧だ。どんな質問にも答えてくれそうに思える。


「はい、御社のスニーカーを愛用している者なのですが、少し質問があってお電話差し上げました。」


ここで僕は嘘をついてしまった。僕はいまナイキのスニーカーを持っていない。
ブレザーのスウェードが欲しいし、htmシリーズなどで欲しいモデルがあるが、今の僕はとにかくお金がない。

実際に履いているのは、コンバースのオールスターとVANSのERAだ(このERAは買って後悔している、よく似た形でAuthenticというモデルがあるが、あっちの方がシルエットが好みなのだ。外見はあまり変わらないけれど、履いてる自分がどうにも納得いかない)。


そんなことが福田さんに伝わる訳がないが、嘘をついてしまった少しの罪悪感を抱えつつ話を進める。

「スニーカーの底についているソールっていうんですか?あの靴底のことです。」

「はい、ソールについてでございますね。」

「ええ、あれは結構な速度で磨り減ってしまいますよね。」

「申し訳ございません。」


ここで、福田さんはソールがすぐ減ることについての苦情と早とちりしてしまったようだ。
まあ仕方ない事だ、普通は磨り減ったソールがその後どうなっているかなんて、ナイキお客様相談室に質問してくる人はいない。


(つづく)
(つづき)


「いえ、そうじゃないんです。御社の靴だけがソールのヘリが早いというわけじゃないんです。御社に電話しておいてなんだと自分でも思いますが、御社のソールはとても優秀で減りは少ない方だと思います。今回お電話した件はそういった苦情ではないんです。」

「はい…と、申しますと?」


この時点で福田さんは「ああ、メンドクサイ相手に捕まってしまったな。これだったら普通のクレームの方が全然マシだ。普通のクレームだったらひたすらハイハイ相槌を打っていれば相手が満足してくれる。こういう訳のわからない質問をしてくる『お客様』(←心の中の声なのに『変なやつ』などと言わず、 ちゃんと『お客様』と言ってしまうところは、さすがナイキお客様相談室のスタッフさんだ)は、ちゃんとした対応をしないと更にメンドクサイ事態になってしまうので面倒だ。

もうすぐ終業時間だし、友達がウィルキンソンの辛口ジンジャーエールをプレゼントしてくれたので、今日みたいな蒸し暑い夜は早く帰宅して、スーパードライでも買って、お手製シャンティガフでも作ってのんびりしたいのに。」と思ったことだろう。


「あの靴のソール、磨り減った部分。毎日ものすごい量が出ていると思うのですが、一体どこに行ってしまっているんだろうと気になっているんです。食べ終わったガムみたく地面にヘバりついている訳でもないようで。お門違いの質問かもしれませんが、シューズのことならナイキさんに聞くのが一番かなと思いまして(実際はコンバースとVANSしか履いていないわけだけれども)。」


この時点で福田さんはだいぶホッとした。この質問、実は結構よくあるのだ。
ナイキお客様相談室の返答マニュアルにも細かく載っている。
今夜は残業せずにお手製シャンディガフを飲みながらのんびりできるなと、胸を撫で下ろした。


「はい、磨り減ったソールがどうなってしまっているかということですね?」

「その通りです。」

「その質問はよく頂いております。」

「えっ、そうなんですか?」


僕は同じ考えを持っていて、尚且つナイキお客様相談室に電話してくる人間が相当数居ることに驚きと奇妙な安堵を覚えた。
世の中にはこういうよく分からない疑問を持っている人が結構いるものなんだなあ。

【靴のソールの行方がどうなっているかを、ナイキお客様相談室へ電話する人間のみが参加できる飲み会】というのを開催したい。

とても楽しい飲み会になるだろう。

もしかしたら好みの女性が居て、そのまま付き合うことになってしまうかもしれない。
そして、その女性と「Tシャツのプリント位置には0.01ミリ単位での差異があるだろうから、在庫を数枚出してもらって見較べたいよね」などと楽しい会話を繰り広げながら人生を共に歩んでいきたい。


「はい、よくお問い合わせ頂きます。実は世の中の靴のソールというものは90%はリサイクル品で、そのリサイクルはトンカトンカ共和国にて行われています。」

「トンカトンカ共和国。。初めて聞く名前です。」


(つづく)
(つづき)


「はい、皆様そうおっしゃられます。トンカトンカ共和国は、いわゆるカリブ海周辺に位置する国でございます。キューバ・ドミニカ・ジャマイカ周辺と言うと、ご想像がつき易いかもかもしれません。国連にも正式に加入してあるれっきとした国家です。」

パイレーツ・オブ・カビリアンで、ジャック・スパロウが活躍していたあの辺りか。
しかし、トンカトンカなんて名前聞いたことがない。


「なるほど、場所は大体把握できました。しかし失礼な言い方かもしれませんが、贔屓目に見てもそれほど有名な国ではないと思います。その国が全世界の靴のソールの90%をリサイクルしてるとは、にわかに信じられません。一体どうして。。」

「風の流れでございます。」

「風…の流れですか?」

「左様でございます。海流と同じく、地球には風の流れというのがございます。」

「はい、それは分かります。」

「すり減った靴のソールはとても軽いものです。そのソールだったものは風によって空中へ運ばれます。そして、地球を取り巻く風の流れに運ばれて”全て”トンカトンカ共和国へ運ばれるのです。」

「全部ですか?」

「そうなんです。なぜそういった事になっているのかは、弊社も長年調査中ですが全く結論が出ません。しかしながら、すり減ったソールが全てトンカトンカ共和国へ辿り着いているのは100%事実でございます。」

「…不思議なものですね。」

「皆様そう言われます。私もそう思っております。ひとまず、弊社としてお答えできるのは現時点ではこれが全てです。他にご質問はございますか?」

「いえ、ここまで詳しく教えて頂けるとは正直思っていませんでした。御社に直接関係無い質問でしたのに、ありがとうございます。」

「とんでもございません。こういった事も我が社の努めですので。」

「ありがとうございました。それでは失礼致します。」

 「福田がお答え致しました。ありがとうございました。」


ガチャ。 ツーツーツー。。

僕は次のサラリーでNIKEのスニーカーを買うことを決めた。
そして、福田さんはウィルキンソンのスーパードライ割りの事を考えていた。


(つづく)

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