2016/03/04

黒い街

こういう日はふらりとあの街に出掛けたくなる。
幸いにも今日の服は全身黒だ。

僕は黒い電車に乗り、黒いホームへ降り立った。


その街は全てが黒だった。
建物や乗り物、人々が着ている服、街灯、教会、信号機さえもが全て黒だった。


目についたバーへ入る。どうせ外も中も全部黒だ。どこだって変わらない。
黒い店内の黒いカウンターへ座る。

まずは黒ビールを一気に飲み干す、そして矢継ぎ早に黒いカクテルを次々とオーダーする。
ブラック・レイン、ブラック・マンディ 、ブラック・トルネード、ブラック・ルシアン。。
墨汁のような液体が次々を喉を通り過ぎる。頭は前よりもずっと冴えている。

 
気がつけば隣に女が座っていた。

気高い都会のカラスのような艶やかな黒髪に、ブラックオニキスのような漆黒の瞳。
すべての光を吸収するブラックホールのような瞳に僕は抗いようもなく惹き込まれた。

真っ黒なルージュを塗った唇から艶めかしい言葉が発せられる。
冴えていたはずの頭はいつの間にかどっぷりとした泥濘(ぬかるみ)に嵌っていた。
全身がコールタールに浸かったように鈍く深く揺らめく。
漆黒の魔女に魅入られた僕は共にバーから抜けだした。


時間は午前二時、完全なる漆黒が完全に黒い街を覆い尽くしている。
黒い雨が降っていた。
黒いネオンが煌く黒いホテルへ暗闇が誘う。

真っ黒のシーツに包まれた真っ黒いベッドへ傾れ込む。
シルクの黒い下着を脱ぎ捨てた彼女は黒豹のようなしなやかな身体で僕に絡みつく。
黒い吐息と黒く激しい息遣いが黒い部屋の中で何度も何度も反響する。
僕は堪らず黒い汗を掻きながら黒い絶頂に達した。黒い精液が彼女の黒い太腿を伝う。


宇宙のような真っ暗な静寂が訪れる。
気まずいその静寂を破ろうと、僕はブラックジョークを口にしてみる。
ハハハ、くだらない。完全に空回りだ。

パンドラの箱を開けたアラビアンナイトはまだまだ終わらない。
僕は黒い溜め息をひとつ吐いた。

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